ミケーネ文明やヒッタイト文明を崩壊させた原因と考えられている謎の集団「海の民」。
NHK BSで2024年2月15日に放送されていた「フロンティア 古代文明 同時崩壊のミステリー」という番組では、専門家たちの近年の研究内容や豊富なCG動画で、この「海の民」と文明崩壊についての謎に迫った。
後期青銅器時代、東地中海にはミケーネ、ヒッタイト、エジプトなどの文明が存在していた。
しかし、紀元前1200年頃にミケーネとヒッタイトは滅亡してしまう。
ミケーネは現在のギリシアの辺りにあり、ドイツの考古学者ハインリヒ・シュリーマンがその遺跡を発掘した文明。事実かどうかは不明だがトロイア戦争でトロイアに巨大な木馬を送り込む作戦を使って勝利したのがミケーネ。シュリーマンはこのミケーネで獅子門や黄金のマスクなどを発掘している。
一方のヒッタイトは現在のトルコからシリアにかかる一帯にあって、紀元前1270年頃にエジプトと世界最初の平和条約を結んでいた。当時としては珍しく鉄器を扱う文明で、鉄は武器にも使われていた。
これらの東地中海世界の各国の間では、国際化した交易ネットワークが発展していた。各国は互いの産物に依存しており、それなしでは成り立たない社会だったと考えられている。
そして紀元前1200年ごろ、「海の民」と呼ばれている集団が登場し、当時の多くの都市国家を侵略する。エジプトは何とかこれを撃退するも、いくつかの都市国家は滅亡してしまう。この「海の民」に関する記録がほとんど残っておらず詳しいことはわかっていないが、番組では以下のように推測を立てていた。
当時、東地中海では深刻な干ばつが何年も続いていた。また、地震も頻繁に発生していた。その影響で飢餓や疫病が広まっていたと考えられている。多くの人々が飢えや病気で苦しむ状況で、各国の支配層は国内を統率する力が弱くなっていったと思われる。
さらに、これらの災害をきっかけに発生した難民、移住者、侵略者が土地や食料を求めて押し寄せ、弱体化していた国は彼らの攻撃を防ぐことができず、いくつかの都市国家が滅亡した。このようにしてやってきた人々が「海の民」だったと考えられる。
東地中海世界に浸透していた交易ネットワークはあだとなってしまう。いくつかの国が滅亡することで交易が滞ると、波及的に他の国々も社会を維持するのが難しくなっていった。これらの複合的な原因が、文明崩壊につながっていく。
番組では、当時の降水量、地震の発生状況、人骨から判断できるケガの原因やDNA鑑定による他国からの民族の流入など、各分野の研究成果をもとにこのような推論を立てていた。
番組内では、トルコのウルブルン沈没船についても紹介していた。この船は紀元前1300年頃に地没したと考えられている。多くの貴重品とともに、11tもの青銅の材料が積まれていたり、少なくとも7か国の積み荷を積んでいたそうで、当時の交易ネットワークを示す証拠となる沈没船の発見は、考古学の中でも大きな発見の一つといわれている。このような大きな発見もあれば、土に含まれる過去の花粉の状態から過去の植物の繁栄状態を調べる地道な研究もある。様々な分野が協力しあって、過去のことが少しづつ判明する。
考古学の研究といえば遺跡を発掘するイメージくらいしかなかった。しかし、実際には幅広い分野の科学的な研究成果が新しい事実の発見につながっていく。それらがパズルのピースのように組み合わさって、遠い過去の謎を解き明かしていくように感じた。これからも、もっといろんな発見が出てくるのを楽しみにしている。
※アイキャッチ画像はミケーネの獅子門。