五十嵐 ジャンヌ
なんで洞窟に壁画を描いたの?―美術のはじまりを探る旅
新泉社
13歳からの考古学シリーズの第二弾。今回は、旧石器時代の人たちが描いた洞窟壁画がテーマ。
歴史好きで歴史部に所属する中学生の秋山理乃は、元世界史教師のキシローじいちゃんと国立科学博物館のラスコー展を見る。ラスコー洞窟はフランスのドルドーニュ県にある洞窟。約2万年前、クロマニヨン人はバッファローや馬などをラスコー洞窟内の壁に描いていた。
ラスコー展のギャラリートークでキシローじいちゃんの教え子のタバタさんと知り合いになった理乃。いくつもの洞窟を訪れるため、理乃はタバタさんの案内で春休みにキシローじいちゃんとフランスへ向かった。
石器時代とは、石で作った道具を使って生活をしていた時代。石器時代は旧石器時代とか新石器時代などに分けられるが、旧石器時代はさらに前期、中期、後期に分けられる。ラスコーの壁画が描かれたのは後期旧石器時代にあたる。当時、ヨーロッパにいたホモ・サピエンスはクロマニヨン人と呼ばれていた。
彼らは大きなスプーンの形をした木製のランプを使い、ネズノキの小枝や動物の脂を燃やして洞窟内の明かりとして使っていたらしい。このランプを使ったほの暗い洞窟のなかで絵を描いていたのだろう。
描き方にも、石器で壁に線をつけて絵を描く方法や、黒や赤の絵具を使って絵を描く方法があったらしい。絵具は、20kmから40km離れた所へ行かないと手に入らないもの。遠くで生活している集団と物を交換することが行われていたのかもしれないし、とても広い範囲を行き来する生活をしていたのかもしれない。
ラスコー壁画は、発見された後に多くの人たちが訪れたことで、洞窟が劣化してしまう。人が吐く二酸化炭素と水と岩の炭酸カルシウムが化学反応を起こして、方解石と呼ばれる白い層が表面に形成される。そのため、現在は一般公開はされておらず、代わりに洞窟を精密に再現した「ラスコー4」と呼ばれる施設で洞窟壁画を見ることができる。理乃たちが国立科学博物館で見たのが、外国でも展示が可能な「ラスコー3」と呼ばれる展示施設となる。
ラスコーやアルタミラの洞窟壁画のことは、子供の頃に読んだ漫画で知った。道具が乏しい中でも絵を描くことの情熱や、いまの自分たちと変わらないで感情豊かな生活をしていたのかなという親近感を感じたことを覚えている。
今は自分も絵を描いている。子供の頃は、誰に言われなくても勝手に絵を描いて遊んでいた。絵を描くことは、人間にとって根源的な欲望で楽しみなんだと思う。当時の人たちが壁画に絵を描いていたことを想像すると、懐かしいような不思議な気持ちになる。
【広告】
Amazonのアソシエイトとして、当メディアは適格販売により収入を得ています。