ベルリンは晴れているか

ブランデンブルク門

深緑野分

ベルリンは晴れているか

筑摩書房

第二次世界大戦で敗戦国となったドイツ。1945年7月、英仏米露の4か国で統治していたベルリンでひとりの男が歯磨き粉に入っていた青酸カリで死亡する事件が起きる。
アメリカ軍の兵員食堂で働く少女アウグステは、容疑者としてソ連のNKVD(内務人民委員部、秘密警察)に連行されてしまう。NKVDは死亡した男の甥エーリヒの居場所を探すようにアウグステに命じる。

ベルリンを舞台にアウグステがエーリヒを探すメインの物語と、アウグステが生まれた1928年から1945年までの、少しずつ第二次世界大戦へと突き進んでいくきな臭いドイツを描く過去の物語。
メインの物語の章と章の間に過去の物語の章が置かれていて、過去の物語は章を進めるごとにメインの物語へ近づいていく構成。
敗戦後のどん底の状況だけど人々の生きるたくましさを感じるメインの物語に対して、ノンフィクションのようにシリアスで悲惨な状況がエスカレートしていく過去の物語は、読むのがとてもつらい時もあり、とても濃厚な読書体験だった。当時の状況が目に浮かぶような綿密で優れた描写と500ページ近いページ数、こんな小説が書ける作家は本当にすごい。

自分たちが享受している「戦争がない生活」がとてもありがたいと強く感じた。同時に、今でも戦争などによって信じられないくらい悲惨な状況に置かれている人たちがいることも現実なんだと突きつけられた気がする。
過去の物語では、どんな状況に置かれていてもたくましく生きる続ける人たちや、自分の正義を貫いた結果、殺される人たちがいて、どっちが正しいかという答えは誰にもわからない。それでも人々は生きていくために何ができるのか悩みながら、生まれた国や置かれた状況で精一杯生きていた。
いつの時代でも、日常の些細なことや人生を大きく変える決断を迫られた時など、後悔しない判断をするためには、自分にとって何が大切なのかということを理解しておかなければならないと思った。

最後に、なぜアウグステが「エーミールと探偵たち」という本を大切に持ち歩いているかが語られるシーンがある。このシーンを読んで、著者はとても本を大切にする人に違いないと感じた。きっと多くの人が本から生きる力を得ている。自分も本との出会いを大切にしていきたい。

※アイキャッチの画像は、ベルリンにあるブランデンブルク門。ベルリンは晴れているのだろうか…。

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